UU:3/3

 ためらっている余裕はなさそうだった。すみやかに相合傘の落書きについて吉村岬に問いただし、別人の手によるものであることを確認しなければならない。しかるのち、渡辺崇には予定どおりに玉砕してもらう。これだ、これ以外にない。
 ひょっとしたら『タカシ』が別人であるだけで、書いたのは吉村岬かもしれない。だが、そのときはそのときだ。非常に気まずいことになるが、耐えよう。最悪、彼女の友人たちから袋叩きにされることまで想定されるが、背に腹は代えられない。
 順当に考えれば、渡辺崇の恋が成就する見込みはすくない。ゼロとは言わないが、無視できるレベル。この世に絶対はないし、完全に否定するのもなんだかかわいそうなので、ゼロとは言わないだけのことで。
 渡辺崇の玉砕は、俺にとって今や自分のこと以上に重大なイベントである。なんとしても見物したい。それも万全の体勢でだ。もしかしたら、万が一にも成功してしまうかも……などとはらはらする余地があってはいけない。その要素は余分で、取り除かなくてはいけない。そのために俺が手を尽くし、身体を張るのは当然の義務だ。
「よく聞け! 俺は吉村に告白することに決めたぞ! 今日にも、だ! わかるか、今日だぞ!」
 そして、まんまと俺の誘導に引っかかった渡辺崇はこんなときにかぎって思い切りが良かった。
「えっ、いきなり?」
「どうした? なぜ拍手しない? なぜ快哉をあげて俺を鼓舞しない!?」
「あー、いや、そうだね、いいと思うよ。ただね、なんというかね……」
 言葉を探して、俺は口ごもる。昨日の今日でこんなありさまとは予想外だが、とにかくどうあれ彼のテンションはかつてない領域に踏み込んでいるようだ。これこそ待ち望んでいたもので、この熱狂をわざわざ醒ましてやる理由なんてひとつもない。ただ今日すぐに、というのはまずい。一日でいいから猶予がほしい。けれども延期しろなんて水を差して、気を変えられても困る。
「その、あれだ、一口に告白と言ってもいろいろあるだろう。どうするんだ? 手紙でも渡すのか?」
「貴様! この俺がそんな女々しい方法をとると思うか!」
 ひぃ、こわい! 今日の渡辺崇はまるで別人のようだ。
「そ、そうだよな、そりゃあ告白っていったら直接言うよな。あたりまえだよな。そうじゃなくて、手紙で呼び出したりするのかなってさ。だとすると、ほら、タイミングがさ。もう登校してるんだから、下駄箱に入れておくとかできないし。あれ? じゃあもう今日っていうのは無理なんじゃないか?」
「ならば別の方法をとるまでのこと。今日は移動教室もある。机にそっと手紙をしのばせるなど造作もない。なんとなれば直接声をかけてどこかへ連れ出したっていい」
「うーん、でもなー、確実とは言えないんじゃないかなー。その点、登校前の下駄箱であれば人目につく心配もないし、ベストだと思うんだけどなー」
「おまえ、こないだはさっさと告白すればいいとか言ってたくせに、どうして今さらそんなことを言う?」
「え? そんなはずは……」
「しらじらしいやつめ。まあいい。おまえがなにを言ったとかは問題じゃない。重要なのは、俺自身が、今すぐにも吉村にこの思いを伝えたいということなんだ!」
 渡辺崇は拳を握って力説する。駄目だ、もう前しか見えていない。その先がしっかり落とし穴だったならば何も言うことはないのだが、俺にはまだその確証がない。すがすがしい心持ちでその背中を押すことができない。
 だが、まだだ。明日以降へ引き延ばすのはあきらめるしかないようだが、まだできることがなくなったわけではない。
「わかったよ……。おまえの決心は固いんだな。今日は無理じゃないかなんて、もう言わないよ」
 俺が肩をすくめてみせると、渡辺崇は眉をひそめた。
「さっきから変なことばかり言う。どうかしたのか? まるで俺が吉村に告白したら困るみたいな態度に見えるが」
「そうじゃない。俺は、おまえの決意がいかほどのものか試したのさ。おまえはいつも口ばかり威勢が良いからな」
 なにおう!と詰め寄ってくる渡辺崇を手で制し、荒ぶる彼を落ち着かせるようにかるく肩を叩いた。
「今日のおまえは口だけじゃないようだ。だがな、そんな勢いまかせでだいじょうぶか? 行き当たりばったりで手落ちがあってはいけない。確認してあげるから手順を説明してみなさい」
「おまえ……本当に頼りになるなぁ……!」
 彼の顔が、人の心の温かさに触れたようにほころんだ。
 言うまでもないが、これは時間稼ぎである。彼の告白計画を把握し、可能な限り遅延を生じさせ、その間に吉村岬に相合傘の落書きについて確認をとる――それですべて予定どおりだ。
 ここが正念場だぞ、と俺は気を引き締めた。


 いったん前のめりになるとどこまでも前のめりになるようで、渡辺崇にプランと呼べるものはなかった。吉村岬と一対一になり、思いを告げる。それだけ。まあ、告白なんて変に練り込んだりせず、シンプルに行われるべきものかもしれない。
 ただ惜しむらくは、そのように脇目も振らずに突撃を敢行してくれそうな彼に、手順を確認させることでわざわざ冷静になる機会を与えてしまうことである。残念だが、でもしかたない。
 さて、ではその手順の具体的な内容についてだが、大きく二つである。いつ、どこで実行するか。他にもあるだろうが、とりあえず俺には関係ない。この二点をコントロールすることで、吉村岬に落書きのことを確認する猶予を捻出することが俺の目標だからだ。
 まず、いつ行うか。渡辺崇は可及的すみやかに事を成し遂げたいようで、昼休みという案すらも妥協の末に出てきたかのような口振りであった。
「いやいや、まずいよ。昼休みなんてどこに行っても生徒がうろうろしていて落ち着かないだろう」
「俺はかまわないが?」
「おまえはかまわなくとも吉村はかまうにちがいない」
「そうか。ならば放課後にしよう。ううむ、もどかしいな」
 しぶしぶ納得したようすの渡辺崇をよそに、俺は放課後までに吉村岬と話す機会がありそうか頭を巡らす。普段から多少でも親しくしていれば話は早いのだが。それに、渡辺崇を引き離しておく必要もあって、それがいかにも困難に思われた。
 しかし悠長に悩んでいる暇もなく、どこで行うか、という点に話題は移る。
「これは普通に教室でいいんじゃないか? 誰もいなくなるまで、すこし待たなきゃいけないかもしれないが」
 渡辺崇は無難に言う。無難だが、しかし今回にかぎっては都合が悪い。相合傘の落書きは教室にあるのだ。もしも確認がとれないまま放課後になってしまった場合、そのための最後の機会も失われることになる。
 逆に言えば、教室以外の場所を指定しておけば、渡辺崇を先行させることで、その間に吉村岬を呼び止めて問いただすチャンスが生まれる。これぞ起死回生の一手。窮地に光あり!
「駄目だ、教室は駄目だ。校舎裏にしなさい。やはり告白といえば校舎裏だろう。伝統的にそうすることが望ましい」
「……たしかに定番かもしれないが、校舎裏って具体的にどこだ? 範囲が広くないか? そもそもどこから見て表裏なのかも判然としないし」
「えっ……! それは、あれよ、理科室のあたりとかに決まっている、うん、常識的に考えて」
「あのへんの特別教室は部活に使っているだろう。丸見えじゃないか」
「そ、そうか……。そうだ、それなら体育館裏だな! まちがいない! 体育館裏といえば、校舎裏と双肩をなして深い歴史と格調高い趣が――」
「いや同じだし、ダムダムうるさいし、どちらかというと不良が気に入らないやつをシメるために呼び出すイメージ」
「むむむ……じ、じつはこの学校には告白に最適と評判の伝説の木が……!」
「なにっ!? そんなこじゃれたスポットがこんな学校にもあったとは! よーし、さっそく下見に行こう! 案内してくれ!」
「あっ、ちょっ……!」
 聞かれるままあっちこっち適当に指示して、たどりついたのは校庭の一角。カバの尻のようにざらざらの幹が芸術的なカーブを描いた針葉樹は、少年少女が初々しく向き合って立っても絵になる感じが一切しない。
「ほんとうに、この松の木が……?」
「ど、どうかなー……?」
 その後、場を和ませるための冗談だと言って聞かせることしばし。
 それからさらに一悶着あり、最終的に告白場所は教室ということで決着した。


 どっちみち、放課後になってすぐさま告白するわけではないのである。教室から他の生徒たちがいなくなるまでには相応の時間がかかる。その間、渡辺崇を遠ざけておけば良いのだ。
「いいか、おまえはきっと大いに緊張するだろう。口が大きいわりに気が小さいからな。もしかしたらうまく口が回らないかもしれない。肝心なところで噛んだりしたら、せっかくの告白も台無しだ。だから身体をよーくほぐしておいたほうがいい。放課後になったら、時間までジョギングとストレッチをするんだ。ぎりぎりまで続けるんだぞ? 身体を冷やすと元の木阿弥だからな」
「的確な指示! さすがだ! ははーん? さては経験者?」
「俺は分析力に優れているんだ、おまえと違ってな。そして違うことで、そう、俺はおまえを手助けすることができる……」
「え……おい、どうしたんだ? いいやつすぎるじゃねえか。ま、まさか近いうち死ぬんじゃないだろうな……?」
「その予定はない」
 ということで、渡辺崇は終業のチャイムが鳴るや否や、教室を出てどこかへ行った。
 吉村岬には、小一時間後の教室にて折り入って話があるとの旨を記した手紙を、事前に彼女の机に仕込んである。読んだかどうか、またそれに応じるかどうかという問題はあったが、今のところ教室を後にするそぶりはない。下校を誘う友人たちの訝しそうな視線に困った顔を返しながらも、教室に居残っている。
 こうして見るかぎりには、吉村岬に別段変わったようすはない。あんな手紙があれば、用件なんて書いてなくとも察しがつきそうなもの。それなのに平然としているのは、そう見えるだけなのか、あるいは。
 案外、見かけによらず、ものすごく肝が据わっているのかもしれない。
 一方の渡辺崇は、今日一日ずっとテンパりっぱなしだった。これは意外でもなんでもない。鎮静と情熱のあいだを行き来して顔色目まぐるしい彼の奇行の数々はなかなかの見ものだったが、しかしいつもに増して行動が読めないこともあって、結局吉村岬との接触は図れずじまい。
 しかし前述のとおりこれは想定された事態である。首尾よく渡辺崇を教室から遠ざけることには成功しているのだから、あとはさっさと吉村岬に相合傘の落書きのことを聞けばいい。たとえその結果として純情なる女子を辱めた咎で袋叩きの憂き目に遭うことになろうとも、この三崎洋、この期に及んで臆病風に吹かれるほど肝は小さくない。
 ところがそんな俺の鋼のごとき意志をあざ笑うかのように、教室には特に用事があるとも思えない生徒たちがだらだらと居座って一向に人気がなくならない。ええい、さっさと帰れ!と内心いらいらしつつも、さすがにありのまま声を張り上げるわけにもいかず、自席でどっしり腰を据えて持久戦の構えである。動かざること山のごとし。貧乏ゆすりなんて、動いたうちに入らない入らない。


 ようやく人気がまばらになったのは、渡辺崇が告白のために戻ってくる時間も押し迫ってきた頃合いだった。俺と同じく席に座ったままの吉村岬が、すこし前からちらちらとこちらをうかがっている。なんだろうと訝しく思いつつも、それどころではないと気にせずにいたのだが、ふと、もしかして彼女は俺が手紙の差出人だと勘違いしているのではないかと思い当たった。そういえば、渡辺崇は手紙の中に自分の名前なんて書いていなかったような気がする。俺みたいな暇人が何をするでもなく放課後の教室に残り、そのうえそわそわと落ち着かなくしていれば、誰だってそう思うんじゃなかろうか。
 困った。やりづらい。気づかなければよかった。
 そしてそんなタイミングで、ついに教室から他の生徒がいなくなる。最後に出ていった女子二人が、俺と吉村岬とを見ながらひそひそと言葉を交わしていた。
 がったん、とむしろわざと大きく椅子を鳴らし、俺は席を立った。吉村岬の肩がびくりと反応するのが見て取れた。彼女がどういう勘違いをしてようがかまうものか。時間がないのだ。
「吉村!」
「はいっ……!」
 背筋をピンと伸ばして反射的に返事した彼女だったが、それから油が切れたみたいに急にぎこちなくなって振り向いた。
「あ、み、さき君。なにかな? や、それにしても、やっぱりヘンな感じするね、えへへ。どうする? 洋って呼んでみる?」
「今はその話どうでもいいので! それよりこっち! こっちに来てこれを見るんだ!」
「え、な、なに? どうしたの?」
「いいから! はやーく!」
「うん、行くけど……」
 血相を変えて急かす俺に若干怯えつつ、吉村岬がやってくる。そのおずおずとした足取りにすっかり焦れて、俺は壁のほうを指さした。ゆっくり近づいてきた彼女が、目立たない位置にある落書きを覗きこむ。
「……相合傘?」
「これは、吉村が書いたものか? あっ、よけいなことは言わなくていいからな。聞くつもりもないし聞きたくない。イエスかノーか、それだけでいい。どうだ? どっちだ?」
「ええ? こんなの知らな――あっ、やだな、これ『ミサキ』って私のことみたいじゃん。誰かのいたずら? 『タカシ』って誰だろ……」
「はい、けっこうです! もうだいじょうぶです! おつかれさまでしたー!」
「なんなの、さっきから……。ねえ、ところでこの手紙くれたのって三崎君? ひょっとして話ってこれのこと?」
「いいえ! まったくの無関係! それじゃ俺はこれで!」
「あっ、待って……!」
 と、吉村岬に言う隙も与えず、俺は脱兎のごとく教室から飛び出す。そのまま隣の教室に逃げ込んだのと、教室前の廊下に渡辺崇が姿を見せたのはほぼ同時だった。
 扉を閉めて、渡辺崇をやり過ごす。息を殺して近づいてくる足音を聞く俺に、隣のクラスの女子たちが眉をひそめている。これは、単に放課後の楽しいおしゃべりを邪魔されたからではない。不審者を見る目つきだ。同じ学校の生徒だというのに、たいへん遺憾だ。別の見方をすれば、危機意識が高く、生徒指導が行き届いているといえるかもしれない。いずれにせよ今それは重要ではない。
 扉が開閉する音がして、渡辺崇はどうやら吉村岬のいる教室に入ったらしかった。俺は闖入者としての立場をわきまえ、そっとその場を離れた。最後まで女子たちの視線はとげとげしかった。
 扉についている窓から、教室内のようすをうかがう。二人は、いくつかの机をはさんで、向かい合って立っていた。角度的に、渡辺崇の顔は見えない。吉村岬の横顔をすこしだけ見ることができた。
 いよいよである。
 俺は拳を握り、固唾を飲んで見守った。
 あとから思い返して気づいたのだが、俺はこのとき、苦労の末にようやく立ち会うことができたこの待ち望んだ場面に、特に心躍ることもなくしていた。ではどんな心持ちでいたのかといえば、正直よくわからない。
 事の次第を見届けなければ、という気持ちはあった。ただそれは、これまでの経緯に深く関与してきたことによる義務感だろう。そうでなければ、もしかしたら、あまり見たくないと思っていたのかもしれない。
 たぶん、二人はなにか話しているのだが、声は聞こえてこない。渡辺崇は思ったとおりに緊張していて、ほぼ直立不動。吉村岬は肩をこわばらせ、両手を胸に押しつけるようにしている。
 ……俺なら、そんなそぶりを見ただけでもう足がすくむ自信がある。
 渡辺崇が腰を折る。彼がどんなことを言ったのか、だいたい想像はつく。きっとひねりも何もないセリフにきまってる。ひねる余裕なんてないだろうからな。
 吉村岬はうつむいて、程良い長さの髪が横顔を隠す。でも、どんな言葉を返すのかまでは予想できないまでも、最低限予測できた範囲にまちがいがなかったことは、渡辺崇の背中からみるみる力が抜けていくさまから察せられた。
 期待したとおりの展開だった。
 渡辺崇による、潔い特攻とその顛末。
 余すところなく見物し、俺は満足のはず。
 ところが、なぜかすこしも楽しめない。
 どこかむなしい。
 本来の渡辺崇であれば、このような成りゆきは俺をかつてない享楽の渦に陥れることうけあい。それなのに、この空虚な心持ちはいったいどうしたことか。
 ……ひょっとしたら。
 あそこでがっくり肩を落としているあいつは、さんざん一緒に遊んでたいていの言動は想像できてほとんど自分と同じ存在で、だからこそ存分におもちゃにしてよかった男とは、もう別のやつなのかもしれない。
 いいようにあやつっていたつもりで、でも実際には。
 たぶん、それがつまらないのだろうと思った。
 吉村岬が、頭を下げて教室を出てくる。彼女が開けたのは俺がいるのとは反対側の扉だったが、隠れることも思いつかず、当然に見つかってしまった。彼女はわずかに表情を歪め、声なき声をもらすと、顔を背けてそのまま歩き去った。


 翌日、渡辺崇は学校を休んだ。
 特にこれといったコメントは受け取っていないが、まあそっとしておくのがいいかなと思っている。
 休み時間、吉村岬がおもむろにやってきた。内心ぎくりとする俺にかまわず、彼女はむっつりとしたまま俺の前の席を陣取ると、どことなく威圧的に取り出した黒ボールペンで壁の落書きを塗り潰し始める。ささやかな恋のおまじないを呪いで上書きするかのような入念なその作業を終えると、彼女はじろりとこちらをにらんだ。
「なにか私に言うべきことがあると思うんだけど?」
「すみませんでした」
 間髪入れずに謝ると、彼女は眉をぎゅっと詰めて嘆息した。
「ってことは、やっぱりなにか私に申し訳なく思うようなことをしてたんだね、こんにゃろう」
 しまった、誘導尋問か――と舌打ちするまでもない。あんなの、何かあると思われるに決まっている。
「なに? 結局私は、二人の遊びに付き合わされたの?」
「それは違う。遊んでたのは俺だけ」
「さいてー」
 軽蔑的なまなざしが突き刺さる。予想以上に深く心をえぐられたが、それはさておき。
「うん、まあ、だからあいつが吉村に言ったことは真剣だから、よければ考え直してやってもらえると助かる」
「…………」
 吉村岬は答えない。つ、と目線だけが流れた。
 答えは変わらないだろう。というより、昨日の彼女の態度は本心そのままのように見えた。いたずらを疑ったのは、あとになって俺の不審な行動を思い返してからではなかろうか。
「――とにかく」
 と、吉村岬は咳払いをひとつ。
「からかわれてたのなら、ちょっと文句言ってやろうと思っただけだから。そうじゃなかった……わけでもないのかもしれないけど、とりあえず反省してるようだから今回は大目に見てあげよう。そのかわり――」
「反省ってなにを?」
「なにをって、三崎君、遊んでたんでしょう? 昨日のことに関係して」
「それはそうだけど、その気もない奴をそそのかして告白させようとかしてたわけじゃない。それどころかうじうじしてはっきりしないでいるのを見かねて背中を押してやったとさえいえる。それを遊び半分っていうなら、みんなだって似たようなものじゃないかと思うんだが」
「う……た、たしかに……!」
 思い当たるふしがあるのだろう、吉村岬は言葉に詰まってうろたえる。
「だから反省すべき点はない。後悔のようなものはあるけど」
「後悔ってどんな?」
 ついもらしてしまった言葉に、彼女は関心を示す。
「さあ。なんとなく、漠然と、ミスった感がある」
 なにそれ、とあきれたように言ってから、彼女はふと姿勢を正した。
「反省はなくても、すこしは私に悪いと思ってる部分はあるんだよね?」
「すこしは」
「じゃあ、そのお詫びをしてもらいたいね」
「さっき謝った気がするけど、まあ聞こう」
「よろしい。では今日、帰りに渡辺君ちに寄ること。お見舞いしてきてください。……って、私が言うのもなんなんだけどさ」
「フラれて落ち込んでいるのをなぐさめるなんて、ちょっと軟弱すぎるような」
 すると吉村岬は目を丸くしてまじまじと俺を見た。心底意外だったらしい。
「どうしたらそういう発想になるの?」
「どうしてもなにも、普通に考えるとそうなる」
 すっかり意気消沈している渡辺崇に追い打ちをかけるというのならまだしも、元気づけようなんてしようものなら絶交を視野に入れて今後の付き合い方を見直されてもおかしくない。
「男子的発想ってことなのかな……? えっと、じゃあお見舞いはいいや。でも渡辺君が学校に来たら、普通に接すること」
 今度は俺が疑問符を浮かべる番だった。
「普通じゃなくなると?」
 問い返すと、彼女は首を傾げて苦笑する。
「どうかな。わからないけど、もしなったら、ちょっと私が気まずいなってだけ」
「吉村はべつに悪いことなんてなにもしてないだろう」
「わかってるよ」
 歯切れよく言って、吉村岬は席を立った。用事が済んだ彼女は、するすると友人たちのほうへ戻っていく。
「何話してたの、三崎と。仲良かったっけ?」
「んー、まあ、ちょっと」
 教室の騒がしさにまぎれて、その短いやりとりだけが耳に届いた。

                                                      (終わり)

この小説について

タイトル UU:3/3
初版 2017年7月1日
改訂 2017年7月1日
小説ID 4951
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こてさきのてばさきの写真
熟練
作家名 ★こてさきのてばさき
作家ID 1074
投稿数 16
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