血と私

かえで
「ねぇ、お母さん。あの人はどうしたの?」
「え?どの人、雪ちゃん。」
そこにいるのに。
どうして、お母さんは気付かないの?
今、お母さんの丁度うしろにいるのに。
「...?誰もいないよ、雪ちゃん。それに今家にいるのは、お母さんと雪ちゃんだけだよ?」
そんなことは無い。いつ、どんな時も。
お母さんと私とお父さん...。あとたまに、おばあちゃんが来てる時でも、常にその人はいるのに。
だから、お留守番の時も、雪は1人じゃないのに。
なんで、お母さんには見えないの?
「ふふっ、想像力が豊かなんだね。良いことだよ。将来がとっても楽しみ。」


「...早乙女雪華(さおとめゆきか)です。雪か、ゆっかって呼んでください。趣味は......読書、です。よろしくお願いします。」
新学期。
まだあまり見慣れない顔がずらっと並ぶ。
外には桜が舞っていて、フワフワと楽しそうにしていた。
これから、また新しい日々が始まるんだ。不安と期待がないまぜになって、私を飲み込んでいってしまう。
「...さて、全員自己紹介をしたかな?じゃ、先生の番だ。」
聞きなれた声。1人の男性が立ち上がった。
「こんにちは、2年2組の担当になった新井です。雪華とかは知ってるよな。」
「はい...。」
1年のときの担任だ。忘れるはずがない。
「君達は、先輩という立場になって舞い上がってはいないかな?この中学校の生徒だという自覚を持って、生活できてはいるかな?これらさえ気をつけていれば、基本的に先生は怒りません。君達は大切な宝物だからな。命を大切にしなくても怒るが...、まぁ、このクラスは大丈夫だと信じているよ。...話したいことは話したし、今日はもう解散にしようか。明日の教科連絡は、特別に先生がしよう。」
ダラダラと話したあと、新井は教科連絡を始めた。
相変わらず甘々な教育論(?)だ。
命を大事にとか、自覚だとか、それさえ守ってれば怒らないなんて。
「あ、明日からは1年生の時の範囲をちゃんと覚えているか確認するテストが美術以外の全てであるからな。ちゃんと勉強してこいよ。」
そう言って、新井は白い歯を見せてニカッと笑った。
その話も笑顔も、無駄になるとは知らずに...。

夢を見た。
いじれられる夢。
私は小学生になっていて、その時の同級生がいじめてくる。
理由は、私の能力だった。
「おい!今は、その『人』っていうの、どこにいるんだよ?」
「やっ、ごめんなさい、許してぇ...!」
「...チッ、話聞けよ!どこにいるんだよ!!」
髪をつかまれ、揺さぶられる。
涙で視界が滲んで、人どころでは無い。
でも、言わなければ、きっとまた蹴られる。...言ってもどうせ蹴られるだろうけど。
「今...は、黒板の前と...。窓の外と...。あと...。」
「あと、なんだよっ!!」
また強く引っ張られる。
頭から、プチプチという音がして、弱い痛みが集まる。
「ぃ、痛いっ!ヒック、エグッ...!き、君の、後ろだよぉ...。」
クラスの人がみんな、そいつの後ろを見た。
私にはハッキリ見える。
全身ミイラみたいに包帯でグルグル巻になってて、舌だけが赤く目立つその人。
でも、何故かみんなには見えなくて。
「...っぷ!あはははははっ、あっはははははは!!!」
お腹を抱えて笑い出す、みんな。
...ヒドイよ。どうして?
なんで私だけ、こんな目にあうの?
「お前ってさぁ...。」
前髪をつかんで無理やり顔を上げさせてくる。
「頭、おかしいんじゃね?精神科医って来いよ!髪の色もみんなと違うしよぉ、変なヤツ見えるらしいしよ!」
そう言うと、また教室が笑いに包まれる。
「あ!」
1人の取り巻きの女子が、声を上げた。
「ねぇちょっと、それは言い過ぎなんじゃない?だってさぁ...。

その子、親いないんだもん!病院なんて、行けないに決まってんじゃん?!」
キャハハハハハハッ!!と、耳障りな笑い声を上げる。
事実だけど、だからって、こんな...っ!
「ひ、ひどいよぉ...。」
「は?」
「なんで、私だけ...っ、こんな目にあわなくちゃいけないの...?なんで、どうして...っ!」
「......お前、ほんとに頭わいてんじゃね?そんなの決まってんじゃん。」
なぁ?と、周りに頷くよう促すそいつ。
つられてみんなもヒソヒソと話しながら頷いていく。
「...普通じゃないからだよ、お前が。」

「...ハッ!!はぁっ、はぁっ、は...ぁ、はぁ、はぁ...。」
酷く悪い夢だった。
普通じゃないことなんて、とっくのとうにわかってる。
けど、それを他人に言われると、とても傷つくのは何でだろう。
認めたくないから?
...わからない。
「どうかしたの?雪姉ちゃん。」
同じ施設の、小さい子が聞いてきた。
「...夢を見たの。ただ、それだけだよ。」
「すごく、汗をかいてる。オバケの夢だったの?」
「まぁ、そんなところ。...ごめんね、起こしちゃった?」
「ううん、いいの。今日は早く起きる日だったから。一緒にテレビ見る?」
「うん。見る。」
オバケ。私にとっては、それよりももっと恐ろしいけれど。
でもまぁ、多分彼らからすれば、私の能力の方が、もっと怖いんだろう。
廊下を息を潜めて歩いていく。
その途中、人が向かいから歩いてくるのが見えたけど、何も言わない。言えば、この小さい子が怯えてしまう。
...私に。
そう思ったのに、今日は違った。
急に小さい子が立ち止まる。そして、か細い声で話しかけてきた。
「ねぇ...雪姉ちゃん。」
次の瞬間、私に生暖かい液体がかかった。
「...ぇ」
思わず壁に手をつくと、廊下に電気がついた。
手が赤い。
パジャマが赤い。
床にも、赤い液体がかかっている。
そしてその海に浮かぶ、小さい子。
「っ......?!キャアアアアアアアアア?!」
髪を滅茶苦茶にかき乱すと、色素の薄い茶色が、赤く染まった。
眠い目を擦りながら職員が出てきて、また叫ぶ。
他の小さい子や、同い年の子達も起きてきて、次々に悲鳴を上げる。
「何?!あの人、誰??!!どういう事?!」
あの人も見えている。私と同じように。
騒ぎが収まらないうちに、人は動き出した。
どんどん私の方に近づいてくる。
イヤ。怖い。来ないで、やめて。いや、いや...!やめて...!!
恐怖で動けないでいる私に、みんなが叫ぶ。
ダメ。足がすくんで...!

「...は?」
その人の頭が、見えた。
...膝まづいている。私に。
ガラガラな声が聞こえた。
「女王様。次は、誰の血をお浴びになりますか...?」
周りがザワザワと騒ぎ出す。
「雪ちゃん...?あなたが、その子を殺したの...?」
「ちっ、違う...!私、知らない!!誰、誰なの?!あなた一体...?!」
「おやまぁ、わたくしめをお忘れですか。前世の記憶を無くしてしまったのですね?女王様。」
「女王なんかじゃない!!私は、早乙女雪華なの!!あんたなんか知らないっ!!」
「いいえ、貴女は女王です。虐殺女王、そのあだ名を、お忘れですか?」
「知らない!忘れたも何も、私は...!」
その時、私はハッとした。
何かの記憶が、ふっと浮かび上がってくる。


「ねぇ、つまらないわ...。何か面白いオモチャはないの?コレはつまらないの。泣かないんですもの。」
ナイフを持って、オモチャを刺す。抜くと、赤い血が出てきている。
でも、つまらない。
「女王様、そのオモチャはもう死んでいます。」
オモチャは_______人だ。
本物の、生きる人。いや、生きていた人。
「...呆気ない。もっとこの血を浴びていたかったのに。誰かよく泣いて、長持ちする物を持ってきて頂戴。」
「はっ、かしこまりました、女王様。」
「女王様!それならば、この間罪を犯して捕まった、あの人物はいかがでしょう。」
「ふん...。どんな人なの、そいつは。」
「とても体力があり、声も大きいはずです。かなりガッシリした体格の男で、1週間後に死刑となっています。」
ならば、先に死んでも文句はないはずだ。
そう考えて手を振ると、鎧を身にまとった兵士達は駆けていった。
しばらくして、彼らが戻ってくる。
「連れてまいりました、女王様。」
「良いオモチャであれば、褒美に30分間遊んでもいいけれど?」
「いえ、遠慮させて頂きます、女王様。貴女の遊びを奪ってしまい兼ねませんから。」
「...良い心掛けね。吊るして頂戴。」
連れてこられた男は、確かにがたい良かった。
でも、猿轡をはめられているせいで、声は出ていない。
くぐもった音がするだけだ。
「...それじゃあ、声を聞くことが出来ないじゃないの。外しなさい。」
「はっ、かしこまりました。」
カチャカチャと音を立てて外されるそれ。
その作業をしている間に、小間使の持ってきた刃物を選ぶ。
...とりあえず、この短剣でいいオモチャかどうかを確認しよう。
「じゃ、始めるわ。...いい声で泣いてね、女王の命令よ?」
カタカタと軽く震えている男に言う。
私の残虐っぷりは、国中で有名だ。うっかり逆らったり、なんだりしてしまえば、遊ばれることは確実。
国民はそれを恐れてルールを守る為、国の治安はその辺りでも一番だった。
「うふふ、どうしようかしら...?うーん、悩むわね。...どうしてほしい?特別に決めさせてあげる。」
「...て...れ...!」
「え?聞こえないわ。」
「お、降ろしてくれぇぇぇぇっ!!!!」
キーン_______と耳鳴りがするほどの大声。
それは、私を喜ばせるだけだった。
「まぁ、大きな声が出せるのね、素敵。でも、そのお願いは聞けないわよ。ほかのものにして頂戴。」
耳栓を薦められたけど、断った。だって、つけたら声がちゃんと聞こえないじゃない。
「...早くして頂戴な。」
「く......ぁ...。」
「...時間切れよ。取り敢えず、貴方の泣き声が聞きたいの。だから、体に所有権を刻みがてら、傷をつけるわね、うふふっ!」
敢えてやる事を説明するのは、想像させるため。
一体どんなふうに遊ばれるのか...。それを考え、恐怖にゆがむ顔が見たいだけ。
「ハァ...素敵な肌ね...。よいしょ、ここに書くことにするわ。」
選んだのは、胸の辺り。 肌が白いから、きっと血が映えるわね。
「ふんふふんふふーん♪」
サクリッ!
「くぁ...っ?!」
「あ、声は我慢しないで頂戴ね?私、貴方が声が大きいことを知って、オモチャに決めたんだから。聞けなかったらガッカリして、生きたまんま人体解剖しちゃうわ。」
ニコリと柔らかく微笑む私とは反対に、男の顔が引つるのを見て、益々楽しくなってくる。
サクサクサクサク......グリュッ!!
「がっ、ああああああ!!!」
「そうそう、いいわね、その調子よ♪」
グリグリグリグリ...
「ぎゃあああああああああああ!!!!!!」
大きな叫びが城に響き渡った。
ゾクリと背筋が震え、快感が走る。
ズブリ...と音を立てて剣を引き抜くと、赤い血がダラダラと肌を伝っていった。
「うふふふふ、綺麗ね?お似合いよ。気に入ったし、貴方は少なくとも1ヶ月、私のオモチャ...。生きる時間が伸びて、良かったわね?」
「くっ、は、はい...。」
「いい返事ね。それ、ずっと続けて頂戴。」
「はい...」
さて、どうしたら涙を流してくれるかしら、と男に問うも、答えはない。
「...鞭打ち10回ごとに、どのくらいの痛みかを説明させてあげる。泣いてるとなおよしね、私の気分がもっと良くなるわ。今日は初日だから...少なめでいいわね」
ほんの少しだが、男の表情に安堵が混じる。
「じゃ、とっても回数を減らしてー、2000回ね♪」
えっ、と男が息を呑んだ瞬間。
バッシーン!!
「っぐあああああああああああ???!!!」
「いっかーい♪」
バッシーン!!!
「ぎゃ、ああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
___________________
「あああああああ!!!」
「じゅっかーい♪どう?どんな痛みかしら?」
「ぐ、あ、あぁぁぁぁぁぁ...。」
「うーん、もう喋れないの?それじゃあ、この先はかなりの辛さになるわね...。しょうがない、これは徐々に慣らしていくことにして、終わりにしましょう。そのかわり、印をつけるわね。」
パチン!と指を鳴らすと、兵士が火と判子を持ってきた。
はんこを手にとって、火の中へ入れる。すると、金属が熱を持って赤く染まり始める。
それを見た男の顔は、青くなっていく。
「さぁ、選ばせてあげる。どこに印を押して欲しい?」
「ぁ、あぁ...。や、めて...ください...。いやだぁ...。」
「女々しいわね。そんな男に、コレは要らないわね?どうせもう、使わないんだし...。」
そう言って、腰にかけてあった布をとる。
そこには、男が男だという証拠がついていた。
「ふふふ...っ!これに、印をいっぱい付けてあげる♡」
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!やめてくれっ、ぎゃあああああああああ!!!!!!」
「いい叫びね、付けたら、もっと叫んで、泣いてくれるわよね。」
すっかり赤くなったその判子を、無情にも近づけていく。
無論、男は釣られているためなすすべが無い。
「うわぁぁおぁぁぁおぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!助けてくれっ、助けてくれえええええええ!!!」
「それじゃ、いっぱい泣いて叫んで頂戴ね?楽しみにしてるわよ♪」
ギュッ!
「ぐあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
ジュジュジュジューーッッッ!!!
肉の焼ける匂いが部屋に立ち込める。そして、男の叫びも...。
「あーーーーーー!あーーーーーっ、くああああああっ!!!!」
「楽しんでくれてるかしら?うふふっ!」
やっと判子が離される。
しかし、重度のやけどを負ったそこは、空気に触れるだけでもひどく痛んだ。
そこへさらに追い打ちがかかる。
「まだまだ行くわよっ♪たーっくさん涙を流して失神して、しばらく起きなくなるまでやるわね!嬉しいでしょう?」
既に意識の飛びかけている男へ声かける私は、確かに、『虐殺女王』だった。

「あ、う、ウソでしょ...?前世...?!そんなの、私、知らない...!覚えてなんか、あぁ...!!!」
「貴女が覚えていなかったとしても、それは事実なのです。」
取り乱す私とは反対に、人は淡々と話す。
周りが騒がしい気がする。でも、それは全て、意識の外でなっていた。
「それに...。」
1つ、人が息を吐く。
「覚えていないのでは無いはずです。認めたくないだけなのでは?それから、わたくしめは貴女の部下です。決して『人』ではありません。『兵士』とお呼びください。...前世のように。」
言葉を失う。
認めたくないだけ?違うっ!本当に、知らないのに!!部下??!!
「...兵士...。それは、本当?」
人が顔色を変えた。そして、にやりと笑う。
「本当ですよ。虐殺女王。」
「ならば、私の命令は何でも聞きますね?」
自然と口調が、記憶の中のものと重なった。
「もちろんでございます、女王様。」
「そう、なら...。」
私はフワリと笑う。
こんな状況でなければ、1輪の可憐な花のようだと思う。でも、今はただの悪魔の笑みだ。
「消えなさい。私の前から。いえ...、世界から。」
「ふむ、なるほど...。それは、かなり無理があります。」
「...何でも聞くのではないですか?」
「聞きたいところですが。私だけではないのですよ。存在するのは。」
ピクリと眉が反応した。
まさか、他にも人がいるのか?1人でも手に余るのに?この施設の中にいるんだとしたら、みんなの身が危ない...!
「世界中に、私たちはいます。目覚めたのです。貴女に血を浴びせるために、人を殺しています。」
笑顔で告げられて、絶句した。
「そう、こんなふうに...。」
一瞬人は、もう動かない小さい子を見やると、サッと横を通った。
ふりかえるも、遅かった。
ビシャアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!
赤く視界が染まって、気が遠のいていった...。

この小説について

タイトル 血と私
初版 2017年11月4日
改訂 2017年11月4日
小説ID 4995
閲覧数 63
合計★ 0
パスワード
編集/削除

コメント (0)

名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。