踊る大捜査線[青室青] - 2/14…幸せについて。(前)[青室]

「室井さん!! 
           青島さん!!」


         貰って下さい!
「このチョコレート
         ちょ〜だいっ!」

(またこの季節かぁ・・・。)

本庁資料室前廊下、湾岸署喫煙所入り口。
真っ赤な顔で薄ら目に涙を浮かべ、箱を差し出す婦人警官。
にっこりと微笑んでメイクばっちり、箱を押しつける婦人警官。

2月14日、バレンタインデー。

モテる色男2人は、職場の婦人警官に呼び止められては菓子を貰う。毎年恒例男女イベント。

今年は何か違うだろうか。



   *     *     *



0円スマイル、湾岸署刑事青島side>

「ほぉ〜、色男ですね、青島さん。」
「いいよそんなこと言わなくて・・・。」

話しかけた相手の思わぬ反応に、雪乃は小首を傾けた。デスク横、大きな紙袋2つ。中にはあふれんばかりの菓子箱。チョコレート。その袋からは甘い香りが漂っている。その匂いに酔った、とでも言うように、相手はデスクに突っ伏し、長い髪をグシャグシャと掻き乱している。

「あら、いいじゃない青島くん。モテモテねぇ〜?」

その様子を見かねた青島の後ろの席の盗犯係女刑事、恩田すみれが会話に入ってきた。すみれの声を聞いてなおも、青島は顔をあげない。

「よくないよぉ・・・?こんな量たべれないよ、俺甘いもの好きなわけじゃないし。ましてやこの量のお返しなんて・・・!」
「ホワイトデーは、3倍返し。これ鉄則。」
「・・・。」

あいかわらずのすみれ。今の青島にその言葉は重い。

「ようは皆お返し目当てでしょ?」

はぁ、と大きな溜め息一つつくと、わかればよろしい。と言うようにすみれの顔が上下した。ますますしょげた青島を見て、雪乃は慌ててフォローする。

「ま、まぁ、青島さんの場合本命も混じってそうですけど!!」
「慰めなくて大丈夫だよ・・・、ははは・・・」

嘘が下手な雪乃の、悪気なしの一言がひどく胸に刺さったところで、横のすみれがふと思い出したように呟いた。

「本命・・・、と言えば、本庁の室井さん。たくさん貰うでしょうね。」
「えぇっ!?」

思いがけない名前の登場にバッと顔を上げれば、雪乃は納得した顔でうなづいていた。青島の反応をわかっていてなのか、そうでないのかはわからないが、あっという間に室井の話に変わる。

「室井さんて、本庁のキャリアで独身じゃない?それに、秋田美人。玉の輿狙う婦人警官うようよね。」
「確かに沢山貰うでしょうね。大人でかっこいいし。」
「眉間に皺を寄せてるのは難点だけどね。」
「でもあの寡黙な感じ。私は好きですよ。」
「あらそうなの?まぁ、青島くんとは逆よね。今頃、絶対沢山のチョコ貰って、眉間に皺寄せてるわ。」

(あー・・・忘れてたぁー・・・)

甘い匂いにやられてまったく考えていなかったが、確かに本庁のキャリア、室井ー・・・青島の恋人、秋田美人はこのイベントで数えきれないほどのチョコレートを貰うだろう。

「・・・恋人としては、複雑、かしら?」

ポソ、とすみれの意地悪く笑いを含んだ呟きが青島の耳の奥にコトン、と落ちる。む、とした顔をすみれに向ければ、「こりゃ失敬」とそそくさ自分のデスクに戻る。雪乃は「じゃあ、そろそろ。」と笑って首にマフラーを巻いた。

「・・・室井さぁん、俺、めげそう・・・。」

本人には届かないSOSは、悲しく消える。時計に目を向けると、時刻は20:30を指している。この場から逃げるようにして愛用のミリタリーコートを羽織ったとほぼ同時。

「青島、俺はもう帰るから、最後にこいつらの取り調べ頼む。」
「・・・ぇ。」

ベテランの元刑事(現在指導員)の和久に引っ張られて来たのは、男2人。片方殴られたであろう、頬が赤く腫れている。双方顔を逸らし、不穏な空気を漂わせている。

「・・・最っ悪・・・。」

何故帰宅時間に補導されるんだよ・・・、と内心で2人に文句を言いつつ、仕方なく男2人、引き取り、すみれに片方任せると、取り調べ室に連行するのだったーーー。




  *     *     *




本庁キャリア秋田美人、室井side>

「クシュンッ、」
「・・・お、何だ室井、風邪か?」

同僚である一倉の言葉に、返す気力がない。

「しっかしモテるなぁ、室井。このチョコレート、一人で食べるの、辛いだろうな。」
「・・・ちゃかすな。」

眉間に皺を寄せ、両手を組み額に当てる。頭を抱える秋田美人。室井の悩んでいる時のポーズ。現実を直視出来ない ーーー・・・、したくない、と目を伏せ、その長い睫毛が頬に影をおとす。この悩む姿にも、性別問わず引き込まれるような、“魅了„されるような何かがあると、一倉は勝手に悟る。

「ちゃかしじゃないさ。事実を言ったまでだろ。」

室井はわかりやすくふぅ〜・・・と一括、大きな息を吐く。

「・・・相手がいるのだと、断った方がよかったか・・・。」

1人ぼやいては、机に広がる書類に再度手をつける。バレてはいけない恋愛上、断れなかったのだということを、一倉は察していた。

「今日は会わないのか。」

室井と青島の関係を知る、一倉が問う。

「・・・彼はモテる。今年はどうも・・・、」

いいかけて、どこか不服そうに室井の顔がよがむ。少し寂しげにも見える。・・・一倉の視線にちょっと気まずくなったのだろう。

「・・・コーヒーを買ってくる。」

そんな気まずさから逃げるように席を立ち、一倉の横を過ぎた瞬間。

    プルルルルルル……

「電話だぞ室井。」

タイミングばっちり、まるで室井の足を引き止めるように机の電話が鳴った。事件かもしれないと、すぐにとった。

「もしもし、室井だが。」
『ぁ、室井さん?恩田でーす。』

電話の向こうが騒がしい。湾岸署か。

「どうした?事件か?」
『いや、青島くんからの頼みごと〜』

“青島„

その名前を聞いて、少しドキリとした。

「・・・何かまた問題でも?」
『う〜ん、わかんないんだけど、室井さんに来てほしいんですって。急ぎみたいよ。』

(急ぎ・・・)

その言葉を聞いて少し躊躇する。知ってか知らずかしばしの無言、痺れを切らしたすみれが

『恋人の頼みくらい、聞いてやりなさいよね!!』

と、一方的に通話終了。大きく息を吐いて受話器を元の位置に戻す。室井の様子を見た察しのいい一倉が微笑む。

「なんだ、“苦肉„の恋人か。」

ーーー・・・苦肉。

間違ってはいない。見透かされたと、仕方なくうなづいて見せた。

「湾岸署恩田くんからだ。青島が急ぎで私を呼んでいるらしい。少し出る。」
「湾岸署に行ったら、そのまま帰っていいぞ。こっちに急ぎの仕事はないからな。それに、そのチョコレート。恋人に分けるなりなんなりして食べろよ。」

さすがと言うかお節介と言うか、一倉の配慮。後半皮肉混じりではあったが、しっかりと受け止めてコートを羽織る。大きな紙袋2つとカバンを持ち、その場を後にした。





  *     *     *





取り調べ中お騒がせ刑事、青島side>

「ほらほら、泣かないでよ〜ね?」

・・・男だが、めそめそと目の前で泣きじゃくる取り調べ中の容疑者(?)。なだめるようにして青島は話していた。

「もうすぐ俺の恋人が来るから。そしたらもっかいちゃんと話してくれるんだよね?」

じっと見た男のその目は純粋に揺れている。コクン、と少しだけ頷く姿を見て、内心ホ、と胸を撫でおろした。

「・・・俺の恋人ねぇ、すっごい美人なんだ。」

待っている間、ずっと泣かせるわけにもいかないと、自分の“のろけ話„で静寂を破る。・・・興味があったのか、下がっていた男の顔が少し上がる。

「スタイルよくて、正義感強い努力家。」

そうなんですか・・・?と遠慮しがちに聞いてきた男に、にへ、と嬉しく笑い返した。

「自慢の恋人なんだ。」

接客業では、まず相手の事を聞く前に、自己紹介。基本中の基本ではあるのだが、以外と難しい。サラリーマン時代、青島がもっとも意識し、得意としていたもの。相手の興味を引き、自分を知ってもらい、仲を深めて契約してもらう。今はもちろん契約どうこうではないが、相手に自分を知ってもらって、取り調べにきちんと応じてくれるよう会話する。・・・会話が自分ののろけ話だというのには、考える部分あるが。

「楽しみです、貴方の恋人に会うの。」

のろけ話していたら、つかの間、容疑者の男の目に涙はなく、枯れている。聞くだけで会いたくなる室井の力。

「・・・期待していいよ。見とれちゃうよ?」

へら、と笑って見せると同時に、コンコン、とドアがノックされる。待ってたよ、と大きめの声で返事すると、スラリとしたスタイルのいい、真っ黒なコートに身を包んだ恋人が容疑者に軽く会釈する。

「わぁっ、すっごく綺麗・・・、」

容疑者の思いがけない一言を受けて照れたのか、口内で頬を舌で押すように、もごもごと動かし、眉間に深い皺を寄せる恋人。

「・・・さ、話してくれるよね?」

自分の横の椅子に室井さんを座らせ、2対1の形に。容疑者はキラキラした瞳を室井に向けたまま、はい、と呟いた。





  *     *     *





取り調べ室、青島の隣、室井side>

取り調べ室に入った途端、綺麗などという言葉が突拍子もなく飛ばされたものだから、思わずそこで固まってしまった。気をとりなおして容疑者の男の話を聞いた。聞けば、連行されたもう1人の男と自分は恋人同士・・・、ゲイカップル、だそうだ。そこまでは取り調べ室に入ってすぐ青島に話したらしいのだが、それから先、経緯などを口をつぐみ、話さなかったらしい。何度も青島が問いただすと逆上し、「刑事さんに同性同士の複雑な恋愛なんてわかんないですよ!!」と泣き出したと。なだめるようにして青島は私との関係を告白。「自分も同性同士のカップルだからわかるよ?」と言った。ところが「相手を見ないと信じられない」と言い、聞かなかったため、仕方なく妥協案を出した。それが私を呼ぶことに繋がるらしい。

「・・・ホントに綺麗ですね、貴方の恋人・・・。」

ふと容疑者の男と目があった。あまりジロジロ見られるのも、容姿などを誉められるのも得意ではないのだが。仕方なくありがとう、呟いて返した。

「僕の恋人は・・・、あいつも、綺麗だけど。」

男は恋人と一ヶ月離れることが店で口論になり、喧嘩。相手を殴ってしまったということだ。たかが仕事の出張で一ヶ月遠距離になるだけ、だとは思うが、本人達には重要なことらしい。男の呟きに青島がそっか。と返す。

「でもねぇ、たった一ヶ月じゃない。」

青島は小首を傾けた。すると、キッと容疑者の男が睨んだ。

「一ヶ月もあったら、浮気だってできるんだよ。魅力的な女の人だって、たくさんいる。一ヶ月・・・、“たった一ヶ月„だって人は言うけど、ただでさえ同性同士なんだよ。離れるなんて絶対嫌だ。刑事さんたち離れたことないんでしょ。職場一緒だもんね。」

一息で言いきり、容疑者は青島を挑発する。・・・たった一ヶ月。その言葉が気に入らなかったらしい。男の様子を見て、ふぅ、と息ひとつ吐くと、少し前のめりになって、青島が口を開いた。

「・・・やっぱりたった一ヶ月だよ。」

その発言に目を見開く。「はぁ!?」と男が掴みかかろうとしてもなお、青島は動揺せず容疑者を見つめる。それどころか、に、と笑ってみせている。・・・青島の笑顔に怯んだのか、男は再びゆっくりと椅子に座った。

「・・・6年。」

青島が男に数を教えるために6本に指し、指を見せた。

「俺と、室井さんが離れてた時間。」

男の顔が一瞬で驚きの表情で満ちた。

「・・・6年?」
「そ。6年。電話もメールもなしで。」
「でも、どうして、そんな・・・、」
「・・・ね、長いでしょ?」

へら、といつも通り気の抜けた笑顔を向けた。

それは、青島が主導権を握った顔だった。


後書き

文字数いっぱいになっちゃいましたので、
前編後編に分けたいと思います((
コメントありましたらぜひ。

この小説について

タイトル 2/14…幸せについて。(前)[青室]
初版 2017年11月15日
改訂 2017年11月17日
小説ID 4997
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みずぬまの写真
駆け出し
作家名 ★みずぬま
作家ID 1099
投稿数 4
★の数 0
活動度 108
まだまだ未熟者ではありますが、たくさんの作品を執筆し、上達していきたいと思います。よろしくお願い致します。

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