簡単で効果的な悪戯メールの出し方

というのも、私はメールというものを使ったことが無かった。
もともと携帯電話は話せれば十分。カメラやらテレビだかが付いてたら確かに便利だが、それは別々に買えば良いではないか。
そんなことを言うと友達は、おかしなものを見る目でこちらを見た。
私はカメラは一眼レフしか認めないとか、テレビはハイビジョンに限るだとか、ぶるじょあーな事をいったわけでもない。かといって、通話以外の機能の充実という携帯電話の存在価値を認めていないとも言っていないのだ。
だから幼馴染に「あなた変ねぇ」なんて言われたときには、流石にムッとした。
だから私はメールぐらいは打てるようにして、彼女に嫌味なメールでも送ってやろうと思うに至ったのである。




――簡単で効果的な悪戯メールの出し方――




まず私は携帯電話の最新機種とやらに機種変更をした。それまで使っていた携帯電話にはカメラ機能が無く、しかも古すぎてディスプレイがほとんど表示されなくなっていたからだ。
携帯電話のショップでこれを取り出した時、店員が「よくこんなものを使ってましたね」と驚いていたのが印象的だった。
更にその携帯を高値で買い取らせてくれといわれた時には肝をつぶした。
何でもここまで古い携帯を何年も大事に使い続ける人は稀で、ここまで古い機種はまさに携帯の中でも御神体として崇められるべき存在なのだそうだ。
世界は広い。
さて、その携帯を売った金で携帯を買うわけだが(携帯を売って携帯を買う。こんなわけのわからないことはあろうか?)私は最新の機能の充実した携帯電話が欲しかった。
だから渡されたカタログの一番先頭のものを、迷わず指差した。こういうものは場の雰囲気で即決するのが一番なのだ。あれこれ迷っていたら、私の性格からして結局買わずに帰ることになるだろう。
店員はにこやかに言った。
「お客様、失礼ですがこのシリーズの利用経験はございますか?」
そんなものはある筈が無い。だいたいなんだ、そのなんたらシリーズというのは。
「このシリーズは操作が難しいため、お客様のように古い機種を使われてきたかたには不向きかと……」
ならばどれにすればいいのだ。私は憤然とした態度で足を組む。こういう場所では弱みを出したほうが負けだ。なんとしても最新の、とても凄い携帯を手に入れるのだ。
「でしたらこちらの方がお勧めです。こちらでしたら操作も簡単ですし、カメラ、ムービー、テレビ機能も付いてますしetc.etc.etc...」
何やら呪文のように単語をいいだした。アプリやらモードやらサイレントやらパケットやら……何を召喚する呪文なのだ。
駄目だ、風は向こうに味方をしている。なんとかして私の方に風向きを変えなければならん。
こうなればままだ。なんとかして一矢報いてこの戦いに勝利してやろうではないか。
「――と、このような機能がございますが更にこのような」
「じゃあそれでいいです」
一瞬言葉に詰まる店員。当然だ、この場の会話の流れを私の一言でひっくり返したのだから。
勝った。
私はそう呟きながら、なぜか腑に落ちない気分を残しつつ家へ帰った。



箱を開けるとそこにはピカピカ光る銀のボディがあった。
まさに最新科学技術の結晶、なんてナウいのだ。
私は慎重に箱から本体を取り出すと、中に入っていたほかのパーツといっしょに並べた。
中身を出している途中、よくわからないものが飛び出してきた。妙に薄くて小さな板。何かの道具なのだろうか。とりあえずそれは適当に工具箱に入れておくことにした。
さて。
机の上に広がる未知の近代科学。流石に充電器と携帯電話はわかるが、なぜかCDまで入っていた。
さすが新世代用携帯。このCDをどうやってこの小さな携帯電話に収めるのか、旧世代の人間である私にはまったくもって理解不能だ。
しばらく携帯電話とCDを持って悪戦苦闘していた。が、携帯電話の横側に蓋があることに気がついた。
なるほど、ここからいれるのだな。
実はこの入り口は小さく見えるが四次元に繋がっていて、ちょっと当てるだけでずずいっとCDが吸い込まれるのだろう。
私は昔テレビで放映されていた某猫型ロボットを思い出した。最近も放映しているらしいのだがアレは偽者だ。ド○えもんの声はお○○○の○よさんでなければ私は認めない。
私は高鳴る胸を押さえながら、ゆっくりとCDを入り口へ近付けた。
さあ、見せてくれ近代科学。夢と希望と夢と希望の世界へ私をテイクアウェイしてくれ!
かちゃかちゃ、
かちゃかちゃ、
かちゃかちゃ、
かちゃかちゃ、
かちゃ。
科学はまだあの猫型ロボットには勝てないようだ。そういえばまだ二十一世紀になったばっかりだ。
少しがっかりしながらも、「そりゃそうだ」と呟きながら取り扱い説明書を開いた。


でかい。厚い。難しい。最新鋭の説明書に求められているものはこの三つなのだろうか。
とにかく、ハードカバーの本ぐらいの大きさの癖にやたら分厚い。更に中に書いてある説明文は読み上げればどこぞの召喚獣やなにかがでてくるのだろうか? まさに呪文。ファンタジー。
そんな本がニ冊組みになっているのだから、思わず燃やしてしまいたくなる。
いや、駄目だ。燃やしてしまっては目的が果たせないではないか。おい、お前は何の為に携帯を買い替えたのだ? あの女に悪戯メールを出すのではないのか? こんなところでお前は挫けてしまうのか?
否、負けるものか。
私は決死の覚悟で説明書をめくった。せめて、せめて基本機能だけでも理解せねば。
ページをめくる。そして携帯をいじる。
携帯をいじる。そしてページをめくる。
もう一度ページをめくる。そして携帯をいじる。
動かない。
電源が入っていなかった。
説明書を床に叩き付けた。



三時間後。何とか通話、カメラ、電話帳の使い方をマスターすることに成功した。しかし未だにメール機能を把握するところまでには至らなかった。
理由がある。単純明快な理由だ。
メモリーカードとはなんだ?
メール機能を呼び出そうとする時もカメラ機能を使うときも‘メモリーカードが入ってません’と表示され、その都度怖くなりその先に進めなくなってしまったのだ。
メモリ−カード? そんなものがあるのか?
私は説明書をめくり、メモリーカードとやらの図を探す。
あった。
妙に薄くて小さな板。
あれかあぁぁ!!!
私は急いで工具箱をひっくり返した。中を舞うドライバー、キラキラ輝く五寸釘、パキっと妙な感触の足の裏。
嫌な予感がした。
ゆっくりと、本当に慎重に足をどけた。見覚えのある、妙に薄くて、小さな、板、が、見事に半分に割れていた。
部屋にこれまでにない無気力な悲鳴が上がった。


二時間後。例の店から帰ってきた。
だいたいなんでこんな小さなものがウン千円もするのだ。それでもかなり割り引いてくれたらしいのだが。
なんでも、アレだけ古い携帯を持っていただけでも語り草なのに買い替えたその日のうちに部品を壊して、とんぼ返りした人間は私一人ぐらいなのだそうだ。
店員は、「あなたは伝説だ」といった。
私は、「御願いですから忘れてください」といった。
まあそんな切ない話しはさておき、私はわざわざメモリーカードなるものを買ってきた。
この意味は誰でもわかるだろう。
つまり、鬼に金棒という意味だ。
さて。
私は携帯の横側の蓋を開ける。ここはCDではなくこのカードを入れるところだったらしい。
では先ほどのCDは何に使うのかという疑問が残るが……まあいい。この際ほおっておこうではないか。
メモリーカードを携帯に差すと、私は蓋を閉めたかった。
閉めたかった。
閉まらなかった。
メモリーカードは半分まではしっかり携帯に差さっていたが、後の半分が飛び出していた。
携帯電話ってこういうものだっただろうか?
試しに操作をしてみる。
使いにくい。
しかも画面に‘蓋が開いています’という文字が怪しく映し出されている。
私は説明書を探し読む。「メモリーカードは半分に分かれます」私は携帯電話からメモリーカードを引き抜くと、先ほど踏んづけたカードの破片を入れてみた。
かちゃん。
しっかりおさまった音。
…………
絵文字に付いてはよく知らないのだが、こう言う時に「おーあーるぜっと」と打つのではないのだろうか。

orz




さて。
全てが用意された。あらゆる実験、検証を繰り返しこの携帯を理解し、把握することに成功した。
理解してしまえば簡単なもので、まだボタンを押す動作はおぼつかないが、何とか様になっていると自分でも満足している。
さあ、いよいよメールを送ろうではないか。
俺は震える指でボタンに触れる。
私はかねてから、もっとも効果的に相手をからかう悪戯メールの文面を考えていた。
携帯電話で目玉焼きの写真を撮り、添付する。
そして私が携帯を代えたことと、いろいろ苦労してやっとメールを出すんだということを書き記した。
そして「私はきみが好きだよ」と、最後に入れた。
私はニヤリと笑い、携帯電話をもって外へ出た。家の中では電波の通りが悪いと思ったからだ。
家を出て、商店街を突っ切って、公園のベンチに座る。
指が寒さで震える。だが心はそれ以上に跳ね、震えていた。
あいつの悔しそうな顔が浮かび上がる。ざま見ろ、私を散々変呼ばわりした罰だ。
私は送信ボタンを、
「なにしてんの?」
押した。
押した。押したのだがタイミングが悪かった。いや、神様は見ているのだ。これは天罰か?
ゆっくり振り返ると、そこには当のご本人が立っていらっしゃった。
私は凍りつく。だが、いやいやと首を振った。
これはチャンスではないか。メールでは相手の表情は読めない。相手の悔しがる顔が見れない。
これは神様が頑張った私にくださった、ご褒美なのではないか?
チンチロリン。彼女の携帯電話が鳴る。
彼女は携帯電話を開いてメールを確認した。
彼女は「へえ、買い替えたのね」とか、「メモリーカード割った? 有り得ない」なんて言いながら読み、一番最後の行を読んだ。
彼女の顔の変化は愉快だった。
まず目が大きく見開かれて、頬が真っ赤に染まる。そして少し口元がニヤついた私が見ているのを思い出して、彼女はふいっとそっぽを向いた。
そして添付ファイルを開いた瞬間。私の一日はまさに報われた。
彼女の顔は一気に赤色になり、同時に悔しそうな顔で私を見たのだ。
勝った。
意味も無く私は勝利の余韻に酔いしれる。
と、ここまではよかった。
彼女はそんな私を見て、はたと思いついたような顔をし、メールを打ち始めた。
いまさら何をする気だと思っていると、彼女は私の方へ携帯をかざした。
「送、信!」
数秒も間を置かずに私の携帯電話が鳴る。私は慌てて携帯を開くと、メールを見た。
「私もきみ好き!」
もちろん添付ファイルが付いてきている。
負け惜しみだろうか。まったく私のメールと同じ手口だ。
私はニヤニヤ笑う彼女に同情しながら添付ファイルを開いた。
私の顔の変化はさぞ愉快だったことだろう。
まず目が大きく見開かれて、頬どころか顔中が真っ赤に染まる。そして少し口元がニヤついた彼女が私を見ているのを思いだして、私は思わずふいっとそっぽを向いた。



誰か、効果的な悪戯メールの返し方を教えてください。

後書き

お久しぶりです。乾燥スルメです。違います、イカです。
久しぶりにホラーを書こうと思って筆を取ったのですが、当初の予定のストリーラインから大幅にずれました。これはもうどうしようもないです。癖です。わざとです。

さて。
今回友人宅でこの後書きを書かせていただいているわけですが、もうすぐ彼もここに来ます。マジで来ます。推理作家です。
どうぞよろしくお願いします。

さて。(二度目)
自分のPCが直ったら、しばらく我関を公開停止にしようと思っています。作者の都合です。書き直す予定はありますがいつになるかわかりません。
今までこの不肖な自分の小説をご覧いただいた皆様、誠にありがとうございました。

さて。(三度目)
伝言。馬野さん。
例の小説、実はまだ読んでいません。コピペして保存してあります。
というのも長々と友人のPCを占領するのも申し訳ないので、家で読もうと思っている次第でございます。
なので感想はまた次の機会になってしまいます…申し訳ない(ーー;)

それでは。






追記
三年前の作品がまさか再評価されるとは……びっくりだー
せっかくなのでかねてから気になっていた箇所を修正。本当に些細な修正です。一人称のおかしなところを直しただけです。
この作品が最後の作品……にはならないよう、これからも亀の歩みのようなペースで執筆していきたいと思っています。
お目汚し失礼しました。

2008/6/27 イカサビS

この小説について

タイトル 簡単で効果的な悪戯メールの出し方
初版 2005年11月14日
改訂 2008年6月27日
小説ID 540
閲覧数 7462
合計★ 59
イカサビSの写真
ぬし
作家名 ★イカサビS
作家ID 4
投稿数 21
★の数 396
活動度 7231

コメント (14)

★W.KOHICHI 2005年11月14日 17時07分34秒
大変ためになりました。何がためになったってこういう現代文。
私はこういう話をしてくれる知り合いはおらず、例えば“orz”ってよく見掛けますけどどういう意味なのか未だに知りません。なのでこういう話を聞けるのは貴重な体験なのです。
多分作者さんの意図とは異なる評価でしょうが、参考になりました。ありがとうございます。
★シキ 2005年11月14日 18時55分58秒
ああ畜生、甘さ光線に負けたよ! 相変わらずのおもしろさだな、と思う。
そうか、とうとうアイツもここに来るのか・・・・・・・スルメでも用意してまってよう(ぇぇ
匿名 2005年11月14日 22時10分46秒
孝之 2005年11月15日 19時51分50秒
ホラーじゃなくて良かったです・・・なにぶんホラーは苦手なもので。
我関公開停止ですか。コピペして保存でもしておきましょうか。
・・・何はともかく、面白かったです。これくらいしか感想言えんのか自分。
あと最後だけ一人称が「私」でなくて「俺」になっているのは何か意図があるのでしょうか?
★馬野鹿麻呂 2005年11月15日 20時05分41秒
ケータイなんて全然わからん馬です。アプリってなんディスカー。興味ないけど(えぇぇ
それはともかく、
いやはや表現のしかたが面白い。召喚獣でもでてくるのだろうか、が一番ツボにきました。プフッと。
(わしもいつかはこんなふうになるのじゃろうな……)
メールの送信のしかたもわからん人間ですからね。ホント、ケータイわからんっす。でも、こんな私でも話のスジはよーくわかりました。故に、面白かったです。
妙にカタい語り口な「私」がイイ感じでした。
匿名 2005年11月20日 17時33分36秒
携帯を所持していない人間が感想を言ってみる。

おもしろいですねぇ。最近の携帯の説明書は2冊もあるのですか。
パソコンと同じくらいか、携帯電話って実はパソコン?

実際こんなイタズラされたら・・・、おもしろいかもしれない。
携帯を持ってる人、ぜひコレをリアルでやってみましょう。盗作?
(おそらくする人いないでしょう。)

★りん 2006年3月9日 21時55分26秒
なかなかな内容でうならされました〜。でも、もしりんだったら、きみが好きって送られてきたら「私もよ」としか送らないです〜。え、どうでもいい?
★日直 2008年5月28日 21時39分44秒
いやあ、主人公は女のつもりで読んでました;
最後の甘々(?)は僕好みです。

真面目に馬鹿やってる『私』が、僕は好きです。
★水木由良 2008年5月29日 19時04分52秒
 面白かったです。
自分は結構ケータイ使いなんですが(メール一日20通以上、アプリ使いまくり etc....)、この小説見てると母を思い出しました(笑)
 ケータイとにらめっこ........微笑ましいです。
★水原ぶよよ 2008年5月30日 23時59分59秒
主人公の気持ちが少しわかりました。
非常に読みやすくて面白かった。
4にしようか5にしようか迷いまして。。。えーい、5つけちゃえww

しかし、最近の携帯って本当にCD聞けるんでしょうか(素でよく知らない)
仮面ライダーヒビキで響鬼さんがなんかディスクを載せてデータを読み取るシーンがあったのでできないことはないと思いながら読んでました。

あれ、でもorzってこういうときに使うもんでしょうか。

土下座とか落ち込んだときに使うんじゃ・・・w
まいいやww
★シェリ 2008年6月1日 0時27分19秒
 何故か知らんが三年経ってから評価が上がる小説も珍しいので、追撃。

 こういう甘い話、大好きです。三年たってからまた読み返しましたが、やっぱりニヤニヤが止まりません。
 僕も一度でいいからこういう青春を送ってみたいものです。
★冬野 燕 2008年6月1日 1時39分53秒
可愛い人だ。可愛い人がいる。

こういうメールのやりとりっていいなぁ。そして目玉焼き。
故意(恋)の悪戯メール。僕も欲しいものです。
★Coa 2008年7月19日 15時19分34秒
すごくおもしろいんですけれど!!!
どうやったこんなの書けはるんですか?
携帯に吹きました(何で?)
ぱんだ 2008年7月29日 15時19分36秒
「きのこ」からこちらを拝見させてもらいました。

いや、これはなかなか良い話ですね。
読みやすく、テンポもよく、何より最後でニヤニヤが止まらない…

GJです。
面白い作品でした、これからも頑張ってください。
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