本当のワケシリーズ - 超能力探偵エラン鏑矢が超能力を使わない本当のワケ

 不景気だ。みんな不景気がいけないんだ。だから就職活動だってめちゃめちゃ厳しかったんだ。
 本当は大手の給料のいい所に勤めて、国家機密の入手とか、危険な隣国の諜報活動とか、ダンディな上司とのオフィスラブとかしたかったのに。
 だけど現実はさ、見たくないんだなー。このクソ寒い時期だってのに、浮気調査の張り込みだもんなー。
 あたしの人生をギャグにされてるよなー。誰かさんに。
 誰かさんって、私の目の前にいる猫背のこいつだ。もっともらしくトレンチコートなんて着ちゃってさ。よれよれのスーツに派手なペイズリーのネクタイでさ。コンディショナー使えよってごわごわの髪でさ。吸ってるタバコが中南海。それで健康に気を使ってるつもりかっつの。
 あげくの果ては“自称”超能力探偵。
 超能力使ってるところ見たことないよ私。
 え? はいはい。ちゃんと取ってますよ記録映像。写真でもいいと思うんですけどね。依頼主に提出するんでしょ。知ってますよ。専門学校で習ったんですから。
 あのさ、そういう、これだからぺーぺーは困るんだみたいな顔やめてもらえます? 絶対にエランさんよりできるってあたし。あたしだったらこんなマンションの前でえんえんと待つなんて地味で効率の悪いやり方よりも、女囲ってる部屋に潜入して盗撮して一時間で終わりますよ浮気調査なんて。
 あー腹減った。肉食いたいな。ステーキ。
 ヒレで。ぶ厚いの。
 赤身が。
 半生!
 くわー。
 それでビール。
 ジョッキで。
 樽生!
 ぐわー。
 はい。なんですか、いいところなんですけど。独り言うるさいって。
 いや、聞こえるように言ってるんですよ。だからあてこすり。やつあたり。そう、不景気だのあたりもね。聴いてたでしょ。
 もう帰りましょうよ。肉食いに行きましょうよ。おごりで。
 金無いなんてウソじゃないですか。あたしへそくりの隠し場所全部知ってるんですから。
 本棚の本の間でしょ。冷蔵庫の奥でしょ。あとこれは難しかったなー。エランさんのそのコートの裏。
 へそくり持ち歩くってどんな神経してるんですか。キモいんですよ。
 そーいうイヤそうな顔したって無駄です。あたしエランさんの口座の暗証番号も知ってるんですから。なに今さらショックを受けているんですか。有意義に使わせていただきました。それがこのバッグです。春の新作です。
 コラ。投げんな。人のバッグ。物は大切にしてください。ホラ、汚れちゃったじゃないの。
 今度はなんですか。出てきた? なにが。亭主? あたしは独身ですよ。
 ってオイ。カメラカメラ録画! あっぶねー。取れてますよばっちり。
 あれ、一人だけですね。浮気相手がいませんよ。
 これじゃ意味ないじゃないですか。二人そろって映さないと証拠になんないですよ。たくもー。素人じゃないんですから、驚かさないでくださいよ。コンビニにでも行くんじゃないですか。
 あ、そうだ。じゃああれやってくださいよ。超能力。使えるんでしょ。超能力。それでターゲットを捕まえて調査なんて終わりにしましょうよ。


 君ね。そういうどーせ超能力なんてうそっぱちのくせに、みたいな人を小バカにした顔やめなさいよ。
 あと人のへそくり盗るのやめなさい。暗証番号も変えとくから。なにが無駄な努力か。
 ほんとにとんでもないやつだな君は。君のお父上に昔お世話になったからこうして雇ってやってるっていうのに。普通だったらクビだよクビ。
 君の行ってた学校ってなんだっけ。あー。あれだ。国際スパイ専門学校。雑居ビルの2階にあるんだよな。1階が「笑笑」で3階が「魚民」。
 ……明らかにモンテローザ系列じゃないか。どんなスパイだよ。
 なに。ピリ辛料理とかけまして、諜報活動と解く。その心は。
 スパイ(ス)が聴(効)いています。
 笑ってんじゃないよ。おもしろくないよひとつも。
 あのね。榎本君。まじめにやんなさいよ。この件の依頼主はものすごく金持ちなんだからね。ギャランティーいくらだと思ってんの。
 2? 甘いよ。5? 違う違う。両手両手。そう、10。
 今さら目の色変えたって遅いよ。君には固定給しかあげませんイテ。腹パンチすんなよ。いきなり。
 あたり前でしょ。まじめに仕事しないんだから。
 書類整理しますねー、なんて言っておきながら、やることはへそくり調査じゃん。もう書類の間にははさんでないから。
 あと榎本君が拾ってきた猫いるじゃん。なんだっけ、名前。青猫じゃなくて。ポーツマスでもないよ。あ、そうそう。ハリガネ。
 ……なんでハリガネなの? まあいいや。
 君がさ、世話は全部やるって言うから飼うの許したのに、最近全然やってないじゃんハリガネの世話。砂換えたり餌あげてんのみんな俺がやってんじゃん。君はひとつもかわいがってないのにさ、俺はひとつもなつかれてないんだよ。
 なにがおかしいんだよ。なに。犬にキャットフードとかけまして、痴話ゲンカと解く。その心は?
 犬も食わない。
 だからおもしろくないって。
 たくさー、君の好きなタイプが楽太郎だか誰だか知らないけどさ。そういう中途半端な問いかけ問答はやめなさい。
 あぁそうね。ターゲットの浮気亭主が戻ってきたね。やっぱりコンビニに行ってたみたいね。ちゃんと取ってる? こういうのも大事だから。いちおうな。
 え? 超能力? 本当は使えないんでしょ? まだ言うか、聞き捨てならないね。榎本君。フルネームは榎本エノモ。ぷぷ。イテ。足を踏むなよパンプスで。隠すことないだろ。君のIQのなさがにじみ出ているいい名前だよ。
 それにね、俺はちゃんと超能力使えます。だてに超能力探偵エラン鏑矢で売ってないよ。
 ただね。俺の能力は人には使えないんだよ。
 あーそういう人をさげすむ顔をする。
 物にはね。使えるの。俺は物体を手を触れずに動かすことができる能力を持っているんだよ。
 例えばね。そこの小石。見てろよ。
 ……。
 ほら。
 すげーだろ。
 びっくりしたろ。
 マジックじゃないよ。
 見直したかへっへっへ。
 だけどな。人に使うと、その人の体に負担がかかるから、体が弱い人とかだとヘタすりゃ死んじゃうこともあるわけよ。あと長時間これやるとな、俺に副作用が出るのよ。
 そう。副作用。
 すげーかゆくなるの体中。
 特に鼻な。
 だから百歩譲ってターゲットの浮気亭主に超能力使ってもいいんだけど、その代わり俺の鼻をかいて欲しいんだよ。かゆいのダメだから俺。
 いいのな? OK。かいてくれるのな。途中で逃げるなよ。超能力を中断するとかゆみが倍になるからさ。
 よしじゃあ段取りは、超能力でターゲットの動きを止める。そのうちにしばりあげて部屋の鍵を奪う、と。部屋の鍵を証拠として提出しよう。いいな。
 始めるぞ。
 ……ふぬぬぬぬ。
 ホラ見たことか。動きが止まったろ。蝋人形みたいだろ。
 よし行け。エノモ。部屋の鍵を取ってこい。
 そしてすぐ戻って俺の鼻の頭をかけ!
 ……なにもたもたしてんだあいつ。
 鍵だよ鍵。それは財布だろ。
 で、中身を確認して、驚いた。いっぱい入ってるんだな。金持ちの依頼主の旦那だもんななにしろ。
 その財布を、……自分のポケットに入れて、走って……、逃げた……。
 えーと……。あのー……。
 うわかゆい。かゆい、やばい。
 おい戻ってこいエノモ。かゆいっていうかそれはまずいだろ。泥棒でしょ。かゆいでしょ。
 おい! おーい。おーーーい……。

後書き

あとがき 改め 「アシスタント榎本エノモが最近金回りのいい本当のワケ」

 やぁ榎本ちゃん。また来てくれたの?
 今日はいい牛が入ったんだよ。話題の大田原牛だよ。
 どうする? いつもの?
 じゃあヒレの特厚、ご飯大盛り、テールスープ付ね。
 でも榎本ちゃんってお仕事なにしてるの? ハタチそこそこのお嬢さんは、普通こんな肉食べられないよね。
 また臨時収入なんだ。でも榎本ちゃんの臨時収入は毎週入ってるからなー。おじさんコワイなー♪
 え? なになに?
 今焼いてるステーキとかけまして、今日の臨時収入と解く。その心は。
 どっちも同じ厚さでしょう。
 うひゃー。おじさんびっくりして目が飛び出ちゃうよ。そんなお金どうやったら手に入るのかねー。あっはっはっはっは。

この小説について

タイトル 超能力探偵エラン鏑矢が超能力を使わない本当のワケ
初版 2006年3月12日
改訂 2006年3月12日
小説ID 620
閲覧数 1580
合計★ 22
蓮打の写真
ぬし
作家名 ★連打
作家ID 9
投稿数 14
★の数 208
活動度 8795

コメント (5)

★W.KOHICHI 2006年3月12日 11時55分32秒
驚愕に値する発想ですね。何をやっててこんな物語が思い浮かぶのか今度聞かせていただけるとありがたいです。参考にしますから。
★シェリングフォード 2006年3月12日 12時02分23秒
 すごく面白いです。キャラ設定が素晴らしいですね。こういうのは僕には書けません。ホント羨ましい才能です。
弓射り 2006年3月12日 18時48分28秒
4回ほど噴きました。
これにも最高点。別に贔屓してるわけでも、ほいほい満点をあげる馬鹿だからでもありません。おもしろいからです。
・・・あー、だめです、にやにや笑いが止まりませんw
★イカサビS 2006年3月13日 15時21分26秒
榎本ちゃんに座布団一枚(ぇ
超能力探偵エラン鏑矢が分かりませんが面白かったです。
★アクアビット 2011年2月7日 11時15分04秒
全部「会話&心の声」って表現難しいんですよね。
すごいな〜。
面白かったです。
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。