名探偵コナン - 真夜中の秘密


 「新一・・・」
「えっ?」
蘭の一言に、コナンはぎょっとして振り返った。
 ・・・なんだ。また独り言か。

この前の、船で怪盗キッドに眠らせられたときから彼女はずっとこんな調子だ。
元気の無い理由をコナンが聞いても、
「ううん。なんでもないよ」
とか、
「やーねー、コナン君が心配することじゃないわよ」
と、無理に笑って見せる。
(大丈夫な顔してねーくせに大丈夫なこといってんじゃねーよ)
コップに入った紅茶を飲みながら、工藤新一こと江戸川コナンはちらっと、窓側を眺めてはため息ばかりついている蘭を気にしていた。
にしても・・・。

 怪盗キッド・・・。
奴は何者だ? 

あの時、お目当ての宝石をけったいな変装(見知らぬ女ならまだしも、変装したのがよりによって蘭だったから余計にそう思うのかもしれないが―――)までして盗んだというのに、わざわざ俺に返しやがった。
・・・何故? 
キッドはただの宝石泥棒じゃないのか? 

・・・あんな格好をしていれば「ただの宝石泥棒」には見えないか。

コナンは軽く深呼吸して、茶色いソファに寝そべった。



★★★



……?



 「ねえおじさん、蘭ねーちゃんは?」
 窓の外は真っ暗だった。
どうやらこんなに暗くなるまで寝ていたらしい。
ビール缶の3本目を開けようとした小五郎は
「あぁ」
と不機嫌そうな顔をして
「友達の家で誕生会があるからっつーてお前が寝てる間に行っちまったよ」
そういった後、黙々とビールを飲み干している。
「ふーん」
 少しずれたメガネを持ち上げ、コナンは襟を直してバスルームに向かった。


★★★


 蘭は後ろを少し振り返った。
「じゃあ、明日ね」
蘭がそう言って微笑むと、園子は蘭に大きく手を振った。
「う〜ん!気を付けて帰るんだよぉー」
 ・・・相当酔ってるわね、園子。
やっぱり飲むんじゃなかった。
 蘭は友達の誕生日を祝うにも関わらず、憂鬱な顔をして物事を考えている間にいつの間にか園子達に酒を飲まされたのだ。後になってからは自分からすすんで酒を飲んでいた・・・とは死んでもコナンには言えないだろう、そう思った。
 ヤケになってお酒飲んで・・・お父さんじゃあるまいし。
それに私、未成年じゃない。

 でも。
そんな常識、考えたくなかった。
何も考える気になんてなれない。
私は



ワタシハ


知ってしまったから。


を、知ってしまっ


少し、休みたい。



 あ、公園だ。

 私はいつから、
いつからこういう場所に来なくなったのか、よく覚えていないけど。
でもこれだけは覚えてる。

 あいつがいた。
あいつがいて、いつもこんな所で遊んで、時々お母さんに叱られてた。
 なんか、余計懐かしくなる。今はあいつが居ないから。
 公園のベンチに腰を下ろした蘭は目を閉じて冬の冷たい風が頬に当たるのを感じながら、自分の幼い頃の思い出を頭の中に描いていた。

 その時。

「そんなところで居眠りしてたら風邪ひきますよ・・・お嬢さん」

 ・・・・。

 白いマントにシルクハット。

彼を完全に覆い尽くさない銀色のモノクル。

間違いない。

――彼だ。

 昨日自分はこの男に眠らされ、海に浮かべられた。
そして彼は私に化けて、みんなの視線を遠ざけた・・・。
「怪盗キッド!」

 「いつか」
キッドは立っていた街灯から難なく飛び降りると、ベンチに座っている蘭に少しずつ、ゆっくりと近づいた。蘭は黙ったまま、すっくと立ち上がった。また何かされるかもしれない。立たずにはいられなかったのだ。
 白い満月が灰色の雲から顔を出し、蘭たちを静かに照らした。
公園の中央の時計は10時を指して、静かにとき秒を刻んでいた。
「いつか、貴方に眠っていただいたことをお詫びしようと思っていました」
「・・・だから? 」
――自分は酔っている。
「そのお詫びといってはなんですが、この泥棒めでよろしければ貴方の一番欲しい物を手に入れてご覧にいれます」

 酔っていてもキッドの言うことはわかっている。
自分の望みを聞いてもらえないことくらい。
でも。
言わずにはいられなかった。

「・・・強さ」
「?」
「・・・新一がいなくても淋しがらないで、貴方なんかに捕まらないくらいの強さ、」

蘭は右目から大粒の涙を流した。

「貴方にわかる? どんなに頑張ったって、どんなに力が強くても、どんなに強がっても私は強くなれないってことを知ったあたしの気持ちが、貴方にわかる?」

そう。


知ってしまった、あるいは解ったというより、悟ったと言った方がいいか。

 この間、信号ですれ違った少年を新一と間違えた。
あまりにも似ていたためかもしれないが、私はかなり必死になって、園子が止める中、彼を追わなければと思った。
結局、その少年は赤の他人であることが判明したのだが。
それだけじゃない。
私は怯えた。
あんな海の上にボート一艘の上に浮かべられて寝ていたとは。
何もなかったから良かったものの、もしも自分に何かあったら・・・。
 いつも怖い時、いつも自分の身が危なくなったときに、あいつの顔が浮かんでしまう。

 新一に会いたい。

彼女の願いはそれだけだった。

会えるだけでいい。

一目会うだけでも構わない。

新一がちゃんといるってわかったらそれでいい。

神様と呼ばれる人がここに存在するなら、誰か伝えて。

そういう人がいるなら、私なんてちっぽけな存在なんだから。

私から直接言うなんて、出来ないと思うから。

私の願いは。


            私の願いは、たった、一つだけ。


 キッドは黙って、蘭の方を向いていた。
そして、彼女を泣かせた罪悪感を感じていた。
(・・・女泣かせてんじゃねーよ)
 蘭が気の毒だった。
 
しばらくして、蘭の体が急にぐらぐらと揺れはじめた。蘭はしっかり立とうとしていたのだが、しっかり立とうとすればするほど意識が遠のいていく。
 体が言うことを聞かない。
だんだん膝ががくがくしてきた。
 体が横に倒れそうになる。

 もう、

立っていられない。

そう思った瞬間、蘭の頭にこっちを向いて不敵な笑みを浮かべた彼がよぎった。
頭の中に霧がかかってゆく。

(新一――)

 「あ・・・っ」
 蘭は倒れた・・・が、華奢にもしっかりした腕が蘭の体を抱きとめた。
(さて・・・)
少女の体を抱きかかえた白い怪盗は月に導かれるかのように、姿を消した。


 遅い。
 園子に聞いても帰ったって言うし蘭は帰ってこない。
おまけに今は11時・・・。
おっちゃんは酒飲んででかいいびきかいて寝てやがる。
 事務所のソファでくつろぎつつ、コナンはいらついていた。
 ったく何やってんだよ。蘭の奴。
コナンは大きなあくびをして、もう一度時計を見てため息をついた。
・・・もう寝るか。
 そう思ったとき、蘭の部屋からかたんと物音がした。
(なんだ?)
階段を登り、彼は蘭の部屋の前まで来た。
部屋をゆっくり開けてみる。

「・・・蘭・・・」
彼の目の前には今まで気にしていた少女の体がベッドに横たわっていた。
いつの間に帰ってきてたんだ?
俺が気付かなかっただけか。
しかし、蘭のそばの窓を見た瞬間、小さな探偵の考えはごろりと変わった。

窓が開いている――

「まさか」
コナンの頭の中に、何故かキザな悪党が浮かんだ。


★★★


 翌朝。
 朝日の光が刺し込むと同時に、蘭は目を覚ました。
 少し鈍い頭痛がする。
 いつの間にかここに運ばれたらしいことを理解すると、蘭はカーテンをシャっと開けた。
 風景がまぶしい。

 悩んでも、仕方がない。
私は待ってるしかできないんだから。

 「おはよう」
蘭が台所に立って朝食の支度をしていたとき、コナンは起きてきた。
「・・・おはよう、蘭ねーちゃん」
コナンは、何もなかったかのように朝食を作っている蘭を不審に思った。
「ねえ、蘭ねーちゃん」
「なあに? 」
「昨日どうやって帰ってきたの?」
 彼女の手が止まった。
 しかし、彼女は微笑した。
「さあ・・・。私も寝ぼけてたから覚えてないのよ。さ、ご飯出来たから。早く食べないと学校遅れちゃうよ?」
 コナンは首を傾げつつ「はぁい」と返事すると、テーブルの上の箸をぎゅっとつかんだ。


後書き

中高生時代に書いた初めての漫画の二次創作です。今回投稿するにあたって多少加筆訂正しました。

この小説について

タイトル 真夜中の秘密
初版 2006年4月5日
改訂 2006年4月5日
小説ID 662
閲覧数 14846
合計★ 14
りんの写真
ぬし
作家名 ★りん
作家ID 36
投稿数 7
★の数 127
活動度 3179

コメント (4)

★シェリングフォード 2006年4月5日 23時47分11秒
 うおぉぉぉーーーーーーー!!!!!!!! コナンを愛して早10年。まさかぱろしょでコナンの二次が見れるとは思っても見なかった。ありがとう、そしてご馳走様です、りんさん。(最近の疲れで少し壊れてる・・・・・・

 この場面は16巻の続きですね。一発でわかりました。16巻は良いですよね。なんといても怪盗キッドとの記念すべき初対決のシーン。あれはコナンファンとしてではなく青山剛昌ファンとして楽しませて頂いた作品です。マイベストシーン癸海貌るくらいのお気に入りです。・・・・・・と、まあコナンの話を語るとあと1000行は軽くいってしまうのでこれくらいで。

 今回の話コナンファンとしては楽しめましたがコナンをあまり見ない人には難しい話になってしまったんじゃないかと思います。その部分を引いて今回は4点とさせて頂きました。

 もしもまだコナンの二次があるのならもっと読んで見たい気がしますね。特に灰原とか見てみたいです。(灰原好きなんで・・・・・・

 あ、あとコナンに飲ませるのは紅茶よりコーヒーの方が良かったですね。コナンはよくコーヒーを飲むので。

 なんかコメントが違う方にいってしまった気がorz
弓射り 2006年4月6日 22時11分23秒
工藤新一がかっこいいと思ってた、そんな時期が僕にもありました。

意味深な始め方をする弓射りです。
守る側と守られる側の気持ちの・・・これは何と言うのでしょうか、交差?
すれ違い・・・しっくりくる言葉を思いつきませんが、蘭の気持ちが
ちゃんと伝わってきました。短い番外編エピソードのなかで、キャラもののドタバタ劇じゃなく、心情がしっかり描かれてた話だったので、読後感も悪くない感じで。
りんさんテイストの蘭を楽しませていただきました。
★日直 2008年4月7日 19時38分09秒
こんばんわ。
ものすごく良かったです。何が良かったかというと、とにかく良いのです。
強さについて…
蘭にぴったりな悩み事ですね。

この場面は何年か前アニメで見たことがあります。とても印象に残っているエピソードなので覚えています。

楽しませてただきました。
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