人工妻 - 命名

川崎大輝
 歩はネズミと遊んでいた。礼儀正しいネズミは可愛いものらしい。歩も楽しんでいる。
 坂本は時間があるときは自室にこもり何か作業をしている。土日は朝から晩まで部屋にこもり、平日は仕事から帰てすぐに部屋に行ってしまう。
 「坂本が心配か?」
ネズミがメールを送ってきた。歩がうなずく。
「坂本にメールを送ってみるか?」
「大丈夫よ。あの人が部屋にこもるのなんてよくあることだもの。話は変わるけどネズミってチーズが好きって本当なの?」
「チーズは大好物だ」

 週末の昼に坂本が部屋から出てきた。
「ついに完成したよ」
坂本は手にマフラーを持っている。
「私がいない間にそんな趣味ができたの?」
「いや、そういう訳じゃ無いんだ。見ればこのマフラーのスゴさが分かるよ。ネズミ、こっち来て」
ネズミは彼の元に行ってマフラーを着けた。意外に似合っている。
「メールを送る感じで電気を流してみて」
「アメンボアカイナアイウエオ」
機械的な女性の声がマフラーから出てきた。坂本は終始ニコニコしている。
「すごいだろ、慣れれば声に感情を入れることもできるよ」
「すごいね。でもなんで女の人の声なの?このネズミちゃんはオスじゃないの」
坂本は首をかしげる。ネズミは早くもマフラーを駆使して怒りの感情を伝えてきた。
「レディに向かって男とは失礼だろ」
歩は言葉がでないほど驚いた。
「だって喋り方が男じゃない。ていうか、あなたは女って分かってたの?」
当然のように坂本は頭を縦にふる。
「だって何も言わなかったじゃない」
「いや、人を紹介する時に『この人は女です』って言うか」
「ネズミじゃない」
「人と同じ知能なんだからそういうの気になるんだよ」
ネズミがツッコむ。メールで話していた時の気遣いのできるキャラとは随分変わってしまっている。歩はこれ以上反論しても意味がないと悟り、いち早くこの話を終わらせる事に努めた。それでも三十分はネズミの説教が続いたのだが。
 「ネズミの名前を決めよう」
坂本が突然提案してきた。
「突然どうしたの」
「ネズミって呼び方じゃ心の距離が近くならないかと思ってね」
「決めてもらえるのかい」
やっとマフラーから喜びの感情が出てきた。
「ネズミも話し合いに混ざってもいいんだよ」
「いいね」
 とりあえず三人で候補を出し合った。
坂本の案(チュー子)
歩の案(チュー太郎)
ネズミの案(猫殺しのチュー)
「女って言ってんだろうがー」
猫殺しのチューが怒り狂う。歩は謝り続けている。
「わざとじゃないの。オスのイメージが抜けないだけなの」
ネズミは怒りの言葉を吐き出し続ける。
「落ち着け、わざとじゃないし反省してるんだから」
坂本がネズミの怒りを治めようと頑張る。
「次、今みたいなことしたらただじゃすまないからな」
 話を戻して名前を決める事にした。
「この中でどれが良いか指差して。自分で考えたのは選ぶなよ」
誰も手を動かさない。三人共『どれが良いか』では悩んでいない。
 ネズミは歩チュー太郎は論外だから坂本のチュー子を選ぶしかないのだがそれも気に食わない。
 坂本も猫殺しのチューを選ぶしかないのだがネズミに用がある時に毎回こんな恥ずかしい名前は呼びたくない。
 歩も坂本と同じ理由で猫殺しのチューは選びたくないが二回も怒られているので、ネズミの方を選ばなければ、また怒られる気がして、どうして良いか分からなくなっている。
 「あの〜」
歩がオドオドと二人に呼びかけた。
「イチ、なんてどうかな」
「なんでイチなの?」
「干支でネズミは一番目だから」
二人共、納得の声を出す。
「俺は良いと思うけど、ネズミはどう思う」
「私も良いと思うよ」
ネズミの名前はイチで決まった。
 歩と坂本は夕食を作っている。今は二人で協力しながら料理している。
「イチって名前、必死に考えて出したでしょ」
二人共、料理をしながら話す。
「まぁ、怒らせちゃったから許してもらうためにね」
「あそこでチュー助って言ったらおもしろかったのに」
二人共、料理の手を止めて笑う。
「歩のことが本当に嫌いなら、歩の意見に賛成はしなかったさ」
「うん」
二人共、料理に戻っている。
 そのまま何も話さず十分後、料理が完成した。チーズフォンデュやほうれん草のチーズ和えなど。
「チーズ料理が多くないか?」
「今日はイチの記念日だからね」

この小説について

タイトル 命名
初版 2017年3月5日
改訂 2017年3月5日
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