今そこにあるタイプのクライシス

 20XX年、世界は核の炎に包まれ、滅亡しようとしていた。
 まだ滅亡してはいない。その手前の段階である。核の炎に包まれるというのも、実際にはまだ起こっていない。このままでは、ひょっとしたらそんなおそろしい事態になってしまうかもしれないよ、という状況である。もしもその事態が現実になった場合にはきっと世界は滅亡してしまうだろうから、そうならないように警告しているのであろう。『20XX年』という不明瞭な年号も、その時期が未定であることを示している。あるいは、今はまだ身近に感じられないが、本当は目と鼻の先まで迫っているかもしれない、そうであってもけっしておかしくはないのだぞ、というように臨場感を煽っているという見方も可能だ。
 滅亡の原因が核の炎であると限定するのはいささか早計ではないかという向きもあるかと思う。何かしらの思惑によって印象を誘導されているのではないかという疑念を抱いたとしても、考えすぎだとは一概にいえないだろう。
 しかし、滅亡の原因としては、核の炎は比較的妥当であると考える。仮に、その原因を遠く宇宙より飛来した巨大隕石の衝突に求めたとしよう。どうにも身も蓋もないように感じられないだろうか。それなら滅亡も仕方ないことだな、とすんなり受け入れてしまいそうに思える。また、それほど大きな隕石であるならば、事前に観測できるはずである。滅亡の時が、一分一秒単位ではっきりと示されてしまうことになってしまう。そのような場合には、人々の混乱を避けるために政府が事実を隠匿することが考えられる。きっと最期の瞬間まで公開されないだろう。一般人にとっては、ある日脈絡なく滅亡を迎えるも同然であり、地球ごと事故に遭ったようなものである。
 め、めめ滅亡ぅ? なんだって? やばいぞ、くそっ、いったいどうしたらいいんだ!? というような切迫感をともなった強い関心を引きたいのである。そのためには、もうまったく手の施しようもない状況設定はいただけない。一見すると絶望的であるけれども、実はまだ努力次第で、やりようによっては回避できる余地があることが暗に示されているのが望ましい。
 そのような観点から、人の手によってもたらされる核の炎による滅亡は、それなりに現実的で順当であるといえよう。破滅を引き起こすのも、引き留めるのも、自分たち次第であればこそ、人々の心に訴えかけるものがあるのではなかろうか。やはり他人事のような態度ではいけない。実際のところ一般人にできることなどたかが知れているが、どちらかといえば足を引っ張るようなことばかりが行われかねないが、それでも各人が当事者意識をもつことは大事である。隕石の衝突はいくら祈っても避けられそうにないが、核の炎は祈っているだけでも避けられそうな気がするところも、不思議ではあるが都合の良い点である。皆が一丸になることの効力は、目に見えないところでだけ働くものだからかもしれない。隕石は見えない力で軌道を変えることはないが核戦争への突入は押しとどめることができる、という意味ではなく、良かれと思って足を引っ張りそうな人がより多く現れることが見込まれて、そういう人が一人でも多く目先を変えてくれたほうが、いくらかは平和が維持されるように思えてならない、という意味である。あくまで私見である。
 ところで、滅亡に至る他の可能性として、未知のウイルスの蔓延という線もなかなかに有力である。一見、隕石同様、自然災害の一種のような印象はある。ただ、その脅威自体はもともと存在してはいたものの、海の底や地の果てなどに眠っていて、まったく影響のない代物だったはずなのがポイントである。害はなかったはずなのに、人類の際限のない拡大志向が仇となり、世界中が危機に瀕するという展開に、人々は自らの業の深さを思い知ることになるわけだ。一時の繁栄に驕ることなく、慎ましく謙虚に生きなければいけないよ、という強いメッセージ性が感じられ、多くの人が心を打たれることだろう。
 核の炎との大きな違いは、人類以外の他の生物を巻き込むか否かである。地球が滅亡するか、地球人類が滅亡するかの違い、と言い換えても良い。天変地異などがあると、しばしば、殖え過ぎて害をなすまでに至った人類に対する地球の免疫反応によるもの、などという話が聞かれる。ウイルスの蔓延という滅亡の理由も、このような例として当てはまるように思われる。自分たちが住まう大地そのものに拒絶されたかのようで、滅亡の理由としては不足ない。
 しかしながら、あくまで核の炎による滅亡を推すのは、母なる大地という高尚な存在を持ち出すまでもなく、徹頭徹尾自分たちの行いの末路としての滅亡であるところが、まさに自業自得であり、より愚かしさが強調されるように思われるのだが、さていかがか。

この小説について

タイトル 今そこにあるタイプのクライシス
初版 2017年3月11日
改訂 2017年3月11日
小説ID 4897
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こてさきのてばさきの写真
熟練
作家名 ★こてさきのてばさき
作家ID 1074
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